大堀相馬焼コラム

きっと馬九いく!大堀相馬焼は浪江の皆さんと共に(7) 岡部守良さん

第7回:岡部守良さん
福島いこいの村なみえ 支配人

浪江町大堀地区に受け継がれてきた伝統工芸品「大堀相馬焼」。左馬(右に出るものがいない)、九頭馬(馬九行久=うまくいく)の絵柄は、日常使いだけでなく縁起物として開店祝いなどの贈答にも用いられ、喜ばれてきました。このシリーズでは、少しずつ活気を取り戻しつつある浪江町でお店を再開したり事業を開始したりしているみなさんをお訪ねし、抱負を伺います。

今回は、2018年6月に町内唯一の宿泊施設として営業を再開した公共の宿「いこいの村なみえ」の支配人、岡部守良さんをご紹介します。

01いこいの村全景

7年3か月ぶりの営業再開

取材の日。小雨の合間に「いこいの村なみえ」の外階段を上ると、踊り場からは向かいの丈六公園の緑が見えました。ほんの少し色づき始めた木々の間に霧がおりる静謐な風景に、案内してくださった支配人の岡部守良さんはさっそくスマホを取り出します。

「写真が好きなんですよ」

館内の廊下には、東日本大震災前の施設の空撮や懐かしい町内の風景とともに、最近岡部さんが撮影したという、見事な夕焼け空の写真なども飾られていました。

02岡部さん@廊下

「いこいの村なみえ」は昭和56(1981)年にオープンした施設です。レストランや大浴場はもちろん、テニスコートや散策路なども備え、多くのお客様でにぎわっていました。大震災と原発事故により営業休止を余儀なくされましたが、今年6月20日、実に7年3か月ぶりに復活したのです。以前と同じ規模ではないものの、現在は町内唯一の宿泊施設として、避難先から一時帰宅する町民のほか、視察やイベントなどで町を訪れる方々を迎え入れています。

本館の客室8室に加え、仮設住宅を移設・改装したコテージ棟が5棟20室。サウナのついた大浴場は日帰り利用もでき、小会議室や宴会場もあります。レストランはありませんが、仕出し弁当や軽食の手配は可能ということです。

「懐かしく、暖かい、ふるさとの宿」

この「いこいの村なみえ」がある高瀬地区で生まれ、高校を卒業するまで浪江で暮らした岡部さん。東京の大学に進学し、卒業後はそのまま在京の外資系大手企業に就職。営業マンとして全国を飛び回ってきたといいます。

「でも、定年したら両親の住む浪江に帰るつもりでした。自然が好きなので、海も山も川もある浪江に戻って、畑と釣りでもやってのんびり暮らす予定だったんです」

大震災が起きたのは、その定年を迎える4年ほど前。全町避難となった浪江から逃れてきたご両親を迎えるため、当時お住まいだったマンションから二世帯住宅へ引っ越しもされたそうです。が、ご両親にとってやはり同じ境遇の方がいない土地はお辛かったのか、浪江には戻れなくてもせめて福島県にということで、3年後にはご親族のいる郡山に移っていかれたのでした。

一方、定年と同時に浪江に帰る計画がダメになってしまった岡部さん。引き続き東京でお勤めをしていましたが、浪江町からの広報誌はずっと届けてもらっていたそう。昨年3月末に高瀬地区を含む町の一部で避難指示が解除されると、浪江に戻りたいとおっしゃるお父様と一緒にそろそろご自身も・・・と考え始めたころ、広報誌の中に「いこいの村なみえ支配人募集」の案内を見つけました。今年の初めのことです。

「これだ!と思って、すぐに応募しました」

「いこいの村なみえ」の所有者は浪江町です。面接に来たときは、馬場有・前町長(その後6月末にご逝去)をはじめ、町の関係者が「13人も並んでいてびっくりした」そうですが、この施設を甦らせて、一時帰宅する町民とすでに帰った町民が交流できる場にしたい、という前町長の強い思いに共感したといいます。そこで岡部さんはまたスマホを取り出して、写真を見せてくださいました。そこに写っていたのは、お菓子を食べながら宴会場で楽しそうにおしゃべりをする女性グループのみなさん。

「こうやってね、懐かしい町民同士が一緒にお風呂に入って食事をしてカラオケ歌っておしゃべりする、娯楽と交流の場所が必要なんですよ。この光景を前町長にも見せて差し上げたかった。ここを文字通り、町民・元町民にとっての『憩いの場』にしていきたい」

03タオル

宿のタオルにプリントされた、「懐かしく、暖かい、ふるさとの宿」の言葉には、岡部さんのそんな思いが込められています。

いこいの村を飾る数々の大堀相馬焼作品

東京時代もご家族を連れてたびたび浪江に帰省はしていたものの、町内で暮らすのは数十年ぶりという岡部さんには、新生活のスタートをお祝いして古典的な大堀相馬焼をプレゼントしました。休閑窯(半谷秀辰さん)による二重焼の夫婦湯呑です。

04湯呑アップ

岡部さんは今回浪江に戻る以前から、大堀相馬焼のぐい呑みや大皿となみえ焼そばのセットを取り寄せたりしてお使いだそう。ぜひこの湯呑もコレクションに加えていただきましょう。記念撮影は従業員の方々と一緒にお願いしました。

05従業員の皆さんと

ちなみに、「いこいの村なみえ」には震災前からの備品として多くの大堀相馬焼作品があります。お部屋の床の間などに飾られた壺や花瓶はもちろんですが、もうひとつ目を見張る大きな作品が。それが本館西側の壁に埋め込まれた壁画です。

06壁画

実は今回の改修時に建物の一部を取り壊しており、この壁画はもともとロビーの壁面を飾っていたもの。以前は室内でお客様を見守っていた左馬たちも、いまでは直接太陽を浴びて気持ちよさそうです。近づいてみると、タイルの一枚一枚には、大堀相馬焼の特徴である「ひび」がちゃんと入っていました。岡部さんにそれをお伝えすると、「それは気づかなかったなあ」とびっくりされ、再びスマホを取り出してタイルのアップをパシャリ。

07壁画アップ

お写真提供、ありがとうございました!

最後に、ずっと情報通信業界で活躍してきた岡部さんにとって、もちろんホテルの支配人は初めての仕事のはず。勝手が違うのではありませんか、とお尋ねすると、「自分は(お客様を相手にする)営業でしたからね。こちらから出かけていくのと、ここでお迎えするのが違うだけですよ」というお答えでした。

そんな頼もしい岡部支配人のもと、「いこいの村なみえ」が町民にとって、また町を訪れる全ての人にとって憩いの場となり、恵まれた周囲の自然環境も生かしながら、ますます発展していくことをお祈りいたします。


福島いこいの村なみえ
福島県双葉郡浪江町大字高瀬字丈六10
電話:0240-34-6161
URL: https://www.ikoi-namie.com/


 

(取材・文・写真=中川雅美 2018年9月)

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