大堀相馬焼コラム

「春の新作展2019」に見る“進化する”大堀相馬焼――6窯元と地域おこし協力隊が出品

2019年2月22日~24日、福島空港ロビーにて、大堀相馬焼「春の新作展2019」が開催されました。

01ポスター

「春の新作展」は東日本大震災後、各地に散らばってしまった窯元たちが一堂に会して展示・販売する数少ない機会のひとつで、5年前の初開催から毎年規模を拡大しています。今年は、大堀相馬焼協同組合に加盟する8窯元のうち6つが参加。各窯自慢の新作展示のほか通常の作品販売も行われ、3日間とも多くのお客様で賑わいました。

02会場全景

02新作展コーナー

伝統とモダン、ベテランと新人――広がる作品の幅

 
まずは新作展示の中からいくつかご紹介しましょう。
 
03春山窯の新作

▲こちらは春山窯(小野田利治さん)。抹茶茶碗の艶消し釉薬は、思い通りの仕上がりになるまでが難しかったそうです▲

04京月窯の新作

▲京月窯(近藤京子さん)の展示で目を引いたのは、この何とも言えないこの赤色。以前から挑戦していたこの色を出すことに、今回やっと成功したといいます▲

 

05いかりや窯新作

▲この真っ白なテーブルウェアは錨屋窯。作り手の山田慎一さんは「白相馬」と呼び、女性に好まれるデザインを意識しているのだとか▲

窯元たちはこうして、伝統を踏まえつつもトレンドを意識した独自の作品づくりに励んでいます。そこに大きな刺激を与えつつあるのが、2018年4月に着任した浪江町地域おこし協力隊の20代の若者たち。県外から福島へ移住し、現在錨屋窯と松永窯で修業をする彼らは、将来陶芸職人として独立することを目指しています。

▷協力隊員のインタビューはこちら

 

06吉田さんと室井さん

▲吉田直弘さん(左)と室井早紀さん▲


そんな彼らの作品が、新作展では初めて展示・販売されたのです。見慣れた大堀相馬焼のスタイルとは一味も二味も違う作品に、多くの来場者が足を止め、作者である2人に声をかけていました。

 

07吉田さんブローチ

雲を表現したこちらのブローチは、吉田直弘さんの作品。京都工芸大学在学中から「雲」をモチーフに作品づくりをしていたとか。泥状にした土を型に流し込んで成型するという技法は、相当な試行錯誤を重ねたそうです。

 

08吉田さん作品1

また、福島の柔らかな雪をイメージしたという白い釉薬も吉田さんオリジナル。その貫入(ひび)に墨をすり込んだものは、伝統スタイルの「青ひび」とはまったく違う趣です。ころんとしたカップの持ち手もかわいらしく、思わず触りたくなりますね。

 

09室井さん作品

こちらは室井早紀さんの作品。側面の三角の突起が印象的ですが、「ここに指がちょうど入るんですよ」と言われたとおり、持ってみると本当に手に馴染みます。カップの底にガラス状にたまった釉薬の色合いもきれいです。さらに、大堀相馬焼の象徴である「馬」も室井さんの感性にかかるとこのとおり。

 

10室井さん作品

こうした“新しい”大堀相馬焼に、協働組合の小野田利治理事長は「こんな発想もあるのかと感心した」といいます。

また、吉田さん・室井さんの主な修業先のひとつである錨屋窯の山田慎一さんは、雲のブローチを指して、「最初は何を作ってるのかと思ったけれど(笑)、出来上がってみるとなかなかいい感じだなと。また、この独特な持ち手のカップも評判がいいようです。これらの作品が出てくることで私たちも刺激を受け、大堀相馬焼全体の作品の幅が広がる。相乗効果ですね」。

 

地元の人々に愛されてきた焼き物は今も

2階ロビーの販売会場では、6窯元それぞれ個性を生かした作品がテーブルいっぱいに並び、お気に入りを目指して訪れたお客様で大にぎわいでした。福島大学の学生たちが広報に尽力してくれたことも奏功したようです。

11栖鳳窯

▲伝統的な作品とモダンな新作とが並ぶ栖鳳窯(山田正博さん)▲

 

12松永窯おひなさま

▲松永窯(松永和夫さん)のおひな様は大変に手の込んだ作品▲

 

13半谷窯

▲半谷窯(半谷貞辰さん)のトレードマークは椿の花。春の季節にあわせて桜の花も▲

 

14春山窯昭和の相馬焼

▲春山窯(小野田利治さん)の展示には昭和に作られた大ぶりの二重焼き作品も▲

 

また、同時開催された「大堀相馬焼167のちいさな豆皿」展(クリエーションギャラリーG8およびガーディアン・ガーデン主催)では、167人のクリエイターたちのデザインによる豆皿のほか、浪江町立なみえ創生小・中学校および近隣の小中学校の生徒たちが描いた絵をプリントした豆皿も展示。これらはみな3窯元が制作に協力したもので、訪れた人たちは手のひらサイズに表現された豊かな個性を堪能していました。

15豆皿

地元で愛され住民の生活の一部ともいえた大堀相馬焼は、震災と原発事故で産地を追われてしまいました。それでも、新天地で再起を図った窯元たちは若い力の刺激も受けながらこうして力を合わせ、浪江の誇る伝統工芸を次代に伝えるべく努力しています。

各窯元の作品は観光物産館や道の駅などで購入できるものもあるほか、一部はオンラインでも扱っています。でも、作者と直接対話しながら実際に手に取って選ぶことこそ、焼き物ショッピングの醍醐味ではないでしょうか。こうした販売イベントのほか、ぜひ県内各地の窯元たちの工房・店舗にも足をお運びいただければ幸いです。

▷県内で再開している窯元の一覧はこちら(浪江町役場ホームページ)

(取材・文・写真=中川雅美 2019年2月)

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