大堀相馬焼 松永陶器店

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きっと馬九いく!大堀相馬焼は浪江の皆さんと共に(13)岡洋子さん

第13回:岡洋子さん
OCAFE(オカフェ)

浪江町大堀地区に受け継がれてきた伝統工芸品「大堀相馬焼」。左馬(右に出るものがいない)、九頭馬(馬九行久=うまくいく)の絵柄は、日常使いだけでなく縁起物として開店祝いなどの贈答にも用いられ、喜ばれてきました。このシリーズでは、少しずつ活気を取り戻しつつある浪江町で事業を再開している方々をお訪ねし、抱負を伺います。

今回は、2018年5月に町内外の方々の気軽な交流の場として「OCAFE」をオープンした岡洋子さんをご紹介します。

01看板の前で

家族の居場所+みんなが集まれるカフェをつくろう

浪江町苅宿(かりやど)地区。市街地から少し離れたこの場所には、のどかな田園風景が広がっています。その中を走っていくと、木立に囲まれた中に小さな建物がありました。外壁には「OCAFE」の看板、入口には「Welcome」の札が下がっています。

02OCAFE入口

引き戸を開けると、中はすてきなカフェ空間になっていました。柔らかい冬の陽が差し込み、暖炉では薪がパチパチと音をたてています。心地よいBGMが流れ、カウンターの中で岡洋子さんが淹れてくれる「OCAFEブレンド」のいい香り・・・。なんだかここでは何時間でも寛いでいられそうです。

「ここにいらっしゃる方が寛いで笑顔になるのを見るのが、いちばん楽しいですね」とおっしゃる岡さん。

もっとも、ここは商売をしている飲食店ではありません。この地に長年お住まいだった岡さんが自宅の倉庫を改修し、住民はもとより浪江を訪れるすべての人の交流の場として提供している「カフェ」なのです。したがって「営業日」というのは決まっていませんが、岡さんが浪江にいらっしゃるときに訪問すれば、このすてきな空間でコーヒーやお茶をふるまってくださいます。

03コーヒーを淹れる岡さん

岡さんのご一家は、かつてここで大規模に農業を営んでいました。大農家らしく、広い敷地には母屋のほかに蔵や倉庫なども建っていましたが、原発事故による長期避難で傷みがひどくなり、母屋と蔵は解体せざるを得ないことに。ご一家は現在、福島市内に再建したご自宅に暮らしています。

「それでもやはり、お墓参りなどで浪江に帰ってきたとき家族の居場所がほしいと思い、倉庫だった小さな平屋を改築して、寝泊まりできるようにすることにしました。そうしたらコーヒー好きの娘が、ここを皆が集えるカフェのようにしたらどうか、というアイデアを出してくれたんです」

そうして誕生したのが、このOCAFE。2018年5月に「開業」しました。その7月には音楽と流しそうめんのイベントを開催し、50人もの人が訪れたそう。他にも、地域の方がちょっとした集まりを開いたり、話を聞きつけてふらっと立ち寄る方がいたり。ここはすでに多くの人が訪れる「隠れた名所」になっているようです。

紙芝居を通して伝え続ける活動も

しかし、OCAFEが多くの人を惹きつける理由は、決してこの空間の気持ち良さだけではありません。

岡さんは2014年から、「浪江まち物語つたえ隊」のメンバーとして活動してきました。大震災の翌年にスタートした「つたえ隊」は当初、浪江に伝わる昔話などを紙芝居化し、主に仮設住宅を回って上演していました。それが次第に、震災と原発事故を伝承していく役割を担い始めます。

「私たちは、あのときの地震や津波、原発事故避難にまつわる様々なエピソードを集め、紙芝居化していきました。私自身の経験を基にした『なみえ母娘避難物語』をはじめ、請戸小学校の話、診療所の話、酪農家の話、消防団の話など、これまでに十数本が完成しています。昔話と合わせるとレパートリーは約30本になりました」

04紙芝居を読む岡さん

岡さんたち「つたえ隊」のメンバーは、依頼に応じてこれらの作品を全国各地で上演。また、「浪江町消防団物語『無念』」のように反響が大きくアニメ化された作品は、海外で上映会を行ったこともあるそうです。そうした活動を通じて「多くの人と出会い、仲間ができた」と語る岡さん。そのお人柄こそ、ここに多くの人が集う最大の理由なのでしょう。

これからが楽しみな浪江のふるさとカフェ

そんな岡さんには、志隆窯(志賀隆芳さん)*のコーヒーカップをお贈りしました。走り駒の絵はありませんが、大堀相馬焼ならではの色味と貫入(ひび)、それでいてモダンなフォルムと仕上げ。明るいOCAFEの雰囲気にもマッチするのではないでしょうか。OCAFEで使う器は、自作のものを含めて自由に選んでいるという岡さんですが、こちらのカップは「わぁ、すてき」とお喜びくださり、すぐにコーヒーを注いだ写真を撮ってくださいました。

05カップを持つ岡さん
06コーヒーをいれた志隆窯カップ
*志隆窯は震災後に再開していませんので、震災前の作品です。

「自宅には大堀相馬焼がたくさんありましたねぇ。花瓶などは今でも使っています。そうそう、紙芝居を上演するとき、まちなみまるしぇ(浪江の仮設商店街)で購入した大堀相馬焼のぐい呑みを小道具として使ったこともあるんですよ」

岡さんの穏やかな笑顔の裏にはもちろん、避難にまつわる計り知れない苦労が隠されています。それでも「起きてしまったことはしかたない。前を向くしかない」と、OCAFE「開業」という一歩を踏み出されました。現在はご商売ではないというこのカフェですが、今後どんな形に発展していくのか、本当に楽しみです。

「私たちがいるときはどうぞ気軽にお茶を飲みにいらして」というお言葉に甘えて、これからも寄らせていただきたいと思います。

(取材・文・写真=中川雅美 2019年1月)