大堀相馬焼コラム

【前編】大堀相馬焼×日本酒ベンチャーWAKAZE インタビュー

DSCF1525-1大堀相馬焼の酒器で、世界に羽ばたく日本酒がいただける。そんなバーが、2018年7月、東京の三軒茶屋にできました。その名は、SAKE醸造所兼バー「Whim SAKE & TAPAS」。新進気鋭な日本酒と創作タパスが楽しめるという、お洒落なバーです。そのすぐ横、ガラス越しには、日本酒の詰まったタンクが4つほど。ここでは、その場で造られたお酒もいただくことができるのです。
この醸造所兼バーを作ったのは、松永陶器店代表の松永武士と同い年だという、WAKAZE代表:稲川琢磨氏。前編では、今回のコラボレーションの経緯や、WAKAZEの世界への挑戦背景について語っていただきました。

■どぶろくの個性を活かせる酒器が、大堀相馬焼だった

松永:念願の自社醸造所オープン、おめでとうございます!3年ほど前の事業立ち上げ時から何かとご一緒させていただいていますが、対談は初めてですね。日本酒造りのベンチャーとして目覚ましく成長されていますが、WAKAZEさんのコンセプトを改めて伺いたいです。

稲川:僕らは日本酒が世界に認められるものになるように、新しいコンセプトの日本酒の開発・自社ブランド商品の販売を行ってきました。飲んだ瞬間、圧倒的に美味しいと言ってもらえる酒づくりにこだわり、どぶろくからフレーバーSAKEまでつくっています。オーク樽で熟成させたORBIAという酒は、洋食とペアリングするための日本酒として。FONIAは発酵の段階で山椒などの和のハーブを織り込んだ華やかな日本酒として開発しました。うちのSAKEは卸ではなく小売店さんに直接販売していて、この3年ほどで全国の半数以上の都道府県で扱っていただいてます。DSCF1475-1

今回つくったこの自社醸造場兼バーは、アイディアが生まれてから1年足らずで実現したんですよ。これまでの酒づくりは委託醸造(既存の酒蔵に製造を委託する方法)で進めてきたんです。でも自社でも製造機能ができることで、新たな酒づくりがどんどん試せますし、酒蔵さんに委託するときも数値、温度管理といった細かな部分まで伝えられるようになります。いい日本酒ができれば、すぐお客様に飲んでもらって、反応をもらえる。食事とのペアリングなど、新たな味わい方の情報発信拠点にもできますよね。ここを拠点に、開発も発信も加速できると思っています。

松永さんの大堀相馬焼は、この店でどぶろくを提供するときに使わせてもらってるんですけど、超好評ですよ。女性のお客様からは「これ、可愛い!」っていう声がよく聴こえてきます。何より、どぶろくの美味しさが引き立つ酒器ですよね。

松永:ありがとうございます。そういっていただけて嬉しいです。DSCF1737-1

稲川:何が違うかというと、まず飲み口が違うんです。なめらかで口当たりが良くて、適度に厚みがある。これがどぶろくのテクスチャーを引き立たせてくれます。
日本酒をはじめとした醸造酒の分類って、普通「香り」「味」の2軸しかないんですよ。この店も提供する料理が洋食というのもあって、そうした2軸を感じられるワイングラスをメインで使おうと思っていました。だけどどぶろくは、2次元的なモノクロの世界に「テクスチャー」という第3の軸を持っている、画期的なお酒です。いろんな酒器を試してみた結果、松永さんのグラスが一番どぶろくのテクチャーが活きる、と思ってお願いしました。

松永:稲川さんとは同い年の起業家ということで、いろんなところでコラボさせていただいてきましたが、こうして新しい店でも使っていただけて光栄です。

■あまのじゃくな代表が、世界の醸造酒市場に挑戦

松永:稲川さんとお話ししていると、日本酒づくりに対する半端ない熱量が伝わって来ますが、もともと酒づくりをしようと思ったきっかけは何だったんですか。

稲川:僕は松永さんと違って、実家は酒づくりとは無縁でしたし、新卒で入った会社はコンサルティングファームという、ものづくりとは全く関係ないところにいたんです。でも、ある時めちゃくちゃ美味い日本酒に出会って、魅せられちゃったんですね。それで「日本酒の美味しさを、もっと世界に広めたい」と思うようになったんです。

松永:今回、こうして開発拠点を設けたわけですが、いずれは海外進出も考えているんですか。

稲川:今年いっぱいはこの三軒茶屋の酒蔵を中心に国内でトライを重ねるつもりですが、来年からは世界に進出したいと思ってます。来年はフランスに酒蔵を立ち上げる計画なんです。DSCF1471-1

松永:そんなに具体的なんですね。場所にはどんなこだわりがあるんですか。

稲川:まず僕、結構あまのじゃくなので、人と違うことがしたいんです。僕は大学のときに海外留学をしているんですが、アメリカに行く人が多い中で「日本語と英語ができるやつなんていくらでもいる。でもフランス語もできるやつはそんなにいないんじゃないか」と思ったんですよね。それで実際フランスに留学に行ったので、その経験を生かそうという思いはあります。

市場の動向も大きく関係しています。日本酒と同じ醸造酒のワインについて見てみると、全世界で20兆くらいの市場規模があるんですが、このうちヨーロッパだけで半分くらい消費しているんです。これだけ醸造酒を飲む文化、下地があると考えると、同じ醸造酒の日本酒が入り込む余地は、ヨーロッパでの方がはるかに大きいと思っています。

■世界に挑戦したいもう一つの理由

稲川:もう一つ、僕がヨーロッパで挑戦したい理由は、日本酒というもののレベルを高めるために、世界のハイレベルな酒と戦う必要があると思っているからです。例えばサッカーについて考えた時に、本田圭祐は海外に行って活躍したからこそ技術が磨かれて、結果的に日本に利益をもたらしたのであって、日本でプレーし続けていたらあそこまでビッグにはならなかったはずです。

日本酒の将来を考えた時に、海外で活躍する日本酒が増えるべきだと僕が考えたのは同じ理由です。フランスにいて、めちゃくちゃ美味いワインを飲んだ時なんて、本当に涙が出るほどなんですよ。どうせだったら、そんなクリスチャーノ・ロナウドみたいなワインと戦った方が、強くなるんじゃないかと。例えそこでコテンパンにされてもいいんです。そこでチャレンジを繰り返していくことに意味があると思う。

世界を見てみたときに、嗜好レベルが高いのはビールやワインだと思っていて、マーケットが広大にあります。だからこそ裾野があって、新しいものが生まれてくる。ワインは5万円、10万円レベルのものが普通に存在しますし、ビール業界にはどんどんベンチャー企業が参入していて、進化できないものは淘汰されています。でも日本酒だけは鎖国状態です。既成産業だから、国内で新しい免許を取ろうと思っても取得できないんですね。でも、海外では免許がいらないことも結構多いんですよ。だから海外でなら自由度高く酒づくりができる。

ただし、実際に技術があったり、そこに投資できる人はほとんどいない。だったら、僕たちがやってみたらいいんじゃないかと思うんです。実は日本の中でも、未経験だけど杜氏をやってみたい、酒づくりに関わってみたいと、WAKAZEに応募してきてくれる人は結構多いんです。日本だとなかなか実現できないから、モヤモヤしているんですよね。そういう人たちが、海外で活躍できる場を作りたい。僕らが技術を伝えていって、暖簾分けをしたらいいと思っています。その人たちが蔵を作るようになれば、海外で活躍する日本人侍がどんどん増えていく。その時初めて日本酒は世界酒になると僕は信じています。この三軒茶屋の醸造所は、その始まりだと思っています。世界に出て行く時には、ぜひこの大堀相馬焼の酒器も一緒に!DSCF1339-1

松永:ありがとうございます!WAKAZEさんによって、日本酒そのものだけでなく、酒づくりの文化が世界に広がっていきそうで楽しみです。(後編に続く)

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